理事の自己契約及び議事録記載内容について
中協法第38条は理事の自己契約について規定されているが、問題点は次の項である。
1.理事の自己契約とは、民法第108条の規定の趣旨により、代表権を有する理事のみが対象となるのではないか。(注)組合と理事は委任関係にあるが、業務の執行については、代理人となっていない。2.自己契約の内容について信用組合において(事業協同組合においても同じ)定款に規定された事業を理事が利用しようとする場合、第38条の規定による自己契約として理事会の承認を得る必要があるか。(注)信用組合の理事が組合から資金を借入れる場合
3.理事の自己契約を承認した場合の議事録の記載方法 中協法第42条で準用している商法第260条ノ4により、議事録の作成方法について規定されているが、この条文の趣旨から、次のうち、どのような記載方法をとるべきか。
(例)議事録 ①理事の自己契約に関する件 出席理事全員異議なく賛成(この場合理事毎に金額、貸付条件等関係書類を別綴として公開しない)②理事○○より100万円借人申込の件 書記より説明あり 出席理事全員異議なく賛成 ③②に対し更に契約の内容について詳細に記載する 書記より説明あり 出席理事全員異議なく賛成 もし、②、③が適当とした場合は、理事個人の信用状態が公開されることとなり、この場合は、「経済関係罰則ノ整備ニ関スル法律」(昭和19年法律第4号)第6条との関係はどうなるか。
1.自己契約の適用について 本条の趣旨は、理事がその地位を利用し、私利を図るために組合に損害を与えるような契約を締結するのを防止することにある。したがって理事(代表権を有しない理事を含む)が組合と契約をする場合は、理事会の承認を受けることを必要としているわけで、この場合代表権を有する理事が契約の当事者であるときは、当事者たる個人の立場と組合の業務執行者たる立場とが一致するので、民法第108条に規定する自己契約禁止の一般原則に抵触することになるが、特に中協法第38条後段において、その適用を除外することとしている。代表権を有しない理事については、お説のとおり組合と理事は委任関係にあるが、業務の執行については、代理人となっていないので代表権を有する理事以外の理事の組合との契約は、自己契約にもならないようにも解せられるが、本条において特に代表理事と限定していないこと及び立法の趣旨からかんがみて、また実際の組合運営上からも代表権を有すると否とにかかわらず、理事が組合と契約を締結する場合は承認を受けるべきものと解される。
2.自己契約の内容について自己契約の内容としては、理事が組合から貸付をうけ又は自分の設備を組合に貸し、又は他人の所有物をそのものの代理人として組合に売るように、組合を相手方とする一切の法律行為を指すが、組合と利害の衝突のおそれが全くない定型的な契約は承認を受けるべき契約の範囲から除外されるものと解する。したがって、定款に規定された事業を理事が利用しようとする場合もその事業の内容に応じて判断すべきであって、設例のように信用組合の理事が当該組合から資金の貸付を受ける場合は上述の除外される契約として解されないので、そのたぴに承認を受けるべきであると解する。なお、手形の割引、振出等の行為については、これを本条にいわゆる契約であるとした判例もあるが、手形の流通証券たる特質にかんがみ、取引の安全保護の見地から、最近においては消極に解されている。
3.議事録の記載内容について 議事録については、商法第260条ノ4第1項及び第2項の規定を準用しているが、その記載事項としては、会議の日時、場所、出席者氏名、議案別の審議の経過、可決.否決の別及び賛成、反対又は棄権した理事の氏名等が記載されていれは一応法律上の要請は満たされているわけである。議事録は、理事が責任を追求される場合に重要な役割を果たすものであるから、明確かつ、刻明に記載することが必要であるが、いたづらに冗長すぎる必要はなく、議事の経過の要領及び議決の結果が判然としているものであれぱ差し支えない。上記趣旨より設例の議事録の記載内容としては、②の記載例が適当であると考えられる。なお、「経済関係罰則ノ整備ニ関スル法律」との関係については、同法は、独占となるような事業或いは経済の統制を目的とする法令により統制に関する業務を行う会社、組合等に対して、それらの団体が、その職務の性質上知得した行政庁や当該団体の重要な秘密を漏泄窃用するのを防止するために規定された関係法律を整備した法律であって、本件の場合のように、理事個人の信用状態の公開というようなこととは関係ない。